現代史研究会(第418回例会)

2004/1/17
青山学院大学

鈴木珠美報告「ティロール射撃団体にみる『伝統』」へのコメント

福田 宏
hfukuda@juris.hokudai.ac.jp
http://hfukuda.cool.ne.jp/sokol/main.htm


1. 若干の前置き

1. 射撃、合唱、体操 ―― もっとも影響力のある結社?
2. 「南ティロール」と「ズデーテン」 ―― 概念の流動性
3. 時代区分 ―― 第一次世界大戦まで、戦間期、第二次世界大戦後

2. 「ズデーテン・ドイツ人」という問題

1. 「ボヘミア・ドイツ人 Deutschböhme」の一体性
北ボヘミア ―― ライヘンベルク(Reichenberg, Liberec)の空しい努力
西ボヘミア ―― フェルキッシュな路線に走るエーガー(Eger, Cheb)
中央ボヘミア ―― プラハのユダヤ系ドイツ人
2. 講和会議における「ズデーテン・ドイツ人 Sudetendeutsche」と「カルパチア・ドイツ人 Karpatendeutsche」
3. 追放されたドイツ人 ―― 共通の記憶

3. ドイツ系体操運動の歩み

1. ハプスブルク時代(19世紀〜第一次大戦)
ドイツ体操家連盟(DT, Deutsche Turnerschaft)の第15支部として
反セム主義の台頭 ―― 「アーリア条項」の採用(1901)
徒歩旅行サークル(1911)、山岳会(1921)などにおける「アーリア化」


2. 戦間期 ―― 運命共同体としての「ズデーテン・ドイツ人」へ(esp. 1930s)
今日、我々は敵国[注: チェコスロヴァキア]によって打たれた境界の杭によって分断されてしまっている。暗澹たる思いではあるが、さしあたり我々は、この事実を所与のものとして受け入れる他にすべはない。だが、血や我々の聖なる母語による絆、ドイツ的性質(Art)や慣習(Sitte)が引き裂かれることは決してあり得ないのだ。 (1919年9月6日, 於: リンツ) Fritz Hirth, Anton Kießlich, Geschichte des Turnkreises Deutschösterreich, Teplice-Šanov (Teplitz-Schönau), 1928, p.437.
3. 追放後も存続した体操協会 ex. エーガー体操協会 ―― シェーネラーは名誉会員!?

4. 敵としてのチェコ人 ―― 対抗関係の存在

1. 体操運動におけるライヴァル関係 ―― ネイション、階級、宗教
コンラート・ヘンライン ―― 1926年のソコル祭典と1923年のミュンヘン体操祭典を比較して
ソコル祭典は、一つの新しい大きな力をチェコ民族(Volk)の中に確実に呼び起こし、フェルキッシュな意味でも一つの傑出した成功をもたらした。ソコル大会は、6年に一度行われ、全スラヴ的な性格をもたらしている。それは、全てのスラヴ人を結びつけるものであり、現にこれまで結びつけてきたのであった。この祭典を評価する際には、[表面に現れる]「何かを」ではなく「如何に」してそれが現れてきているのかを見るべきである。ソコルは確かに多くの支持を勝ち得ているが、それは目に見える華麗さではなく、むしろ精神によってなのだ。お金で買うことの出来ないその精神こそが全ての者を熱くするのである。我々はいつ、こうした精神力を持った体操祭典を実現することができるのだろう? Rudolf Jahn, Konrad Henlein: Leben und Werk des Turnerführers, Karlsbad/ Leipzig, 1938, pp.73-74.

5. 市民社会のプロジェクト ―― 基盤としての結社

1. 市民を「網の目状に結合する」場としての結社
ギムナジウム、劇場、新聞、出版社、社交会と協会、体操場と遊歩道 (コッカ [5, p.67])
2. 結社は《市民共同体》度のバロメーター? → 射撃協会はどのように位置づけられるか?
パットナム ―― 《制度パフォーマンス》指数と《市民共同体》指数の相関関係


参考文献

  1. Documenta Pragensia. Praha, 2000. No.18: od středovĕkých bratrstev k moderním spolkům [中世的兄弟団から近代的結社へ].
  2. 福田宏. 「ソコルと国民形成 ―― チェコスロヴァキアにおける体操運動」. 有賀郁敏他著『スポーツ』(近代ヨーロッパの探究8), pp. 67--96. ミネルヴァ書房, 2002.
  3. Rudolf Hemmerle. Sudetenland Lexikon: Geografie, Geschichte, Kultur. Bechtermünz Verlag, Augsburg, 1997.
  4. Rudolf Jahn, editor. Sudetendeutsches Turnertum: Im Auftrag der Arbeitergemeinschaft sudetendeutscher Turner und Turnerinnen in der Sudetendeutschen Landmannschaft. Heimreiterverlag, Frankfurt am Main, 1958. 2 parts.
  5. ユルゲン・コッカ編著, 望田幸男監訳. 『国際比較・近代ドイツの市民 ―― 心性・文化・政治』. ミネルヴァ書房, 2000.
  6. Marek Lašťovka, Barbora Lašťovková, Tomáš Rataj, Jana Ratajová, Josef Třikač. Pražské spolky: soupis pražských spolků na základĕ úředních evidencí z let 1895--1990. [プラハの結社 ―― 1895年〜1990年にかけての官庁記録に基づくプラハの結社目録]. Scriptorium, Praha, 1998.
  7. Andreas Luh. Der deutsche Turnverband in der Ersten Tschechoslowakischen Republik: Vom völkischen Vereinsbetrieb zur volkspolitischen Bewegung. R. Oldenbourg, München, 1988.
  8. 森田直子. 「近代ドイツの市民層と市民社会」. 『史学雑誌』, 110編1号, pp. 100--116, 2001.
  9. ジョージ・L.モッセ著, 佐藤卓己, 佐藤八寿子訳. 『大衆の国民化 ―― ナチズムに至る政治シンボルと大衆文化』(パルマケイア叢書1). 柏書房, 1994.
  10. Claire E. Nolte. The Sokol in the Czech Lands to 1914: Training for the Nation. Palgrave MacMillan, New York, 2002.
  11. ロバート・D.パットナム, 河田潤一訳. 『哲学する民主主義 ―― 伝統と改革の市民的構造』. NTT出版, 2001.
  12. Frank Trentmann, editor. Paradoxes of Civil Society: New Perspectives on Modern German and British History. Berghahn Books, New York/ Oxford, 2000, 2003.
  13. マイケル・ウォルツァー編, 石田淳他訳. 『グローバルな市民社会に向かって』. 日本経済評論社, 2001.
  14. Davide Zaffi and Roman Zaoral. “Ethnicity Policy in School-Associations: Two Case Studies from the Austro-Hungarian Monarchy (1880-1900)” In László Kontler, editor, Pride and Prejudice: National Stereotypes in 19th and 20th Century Europe East to West, pp. 53--66. Central European University, 1995.
<以下省略>